道
一 青 春
兄と妹がいた。
田舎でも都会でも、迫害を受けた。
兄は、妹をまもる。妹は、兄をいたわる。
力の限り、二人で生きていた。
これは戦争なんだ。正当な権利を得るための、闘争だ。
罪のない人たちを巻き込むだけ。
犯罪といっしょにするな。為政者が罪を犯しているのだから、我々に正義がある。
かなわない。無理。
俺は、突っ込む。
やめて。
いつまで泣き寝入りをすればいい。弱虫どもの面倒はお前にまかせた。
お兄ちゃんの・・、お兄ちゃんが心配だから、いうのよ。
二 朱 夏
委員長。報告します。
何人殺した。
十二名。当方の散華、二名。捕虜となったもの一名。
そいつは潜入要員により、口封じ。
いい。忘れてはいけないのは、命の重さです。
でも、いつも冷やかされてばかり。
怖くはない。銃口も。嘲笑も。それが、私たちの強さなんです。
わかりました。粛々と、ですね。
首都は荒廃したが、激徒は敗走。
各地で、裁判無しの処刑が繰り返され、兄の手足は掃討されていった。
官製選挙が、形作りにとりおこなわれた。
妹は、野党の首領として議席を得るが・・
三 白 秋
何を言ってるのよ。市民の半分は女。弱気になることはない。
軍が、黙っていません。
軍人だって、お母ちゃんから生まれたんじゃない。
あたしは怖い。
よし、あいつ、よくやっている。
体制は、四分五裂。潮が満ちてきました。
武器と食糧をかき集めろ。脅してでもタマを徴兵。
逆らうやつは、いつも通り。
私の命が欲しければ、お好きなように。何も持っていません。
話だけは聞いてやろう。
国を治めるための良策があります。
お嬢さんは何も知らないようだ。何事も力で動く。世間知らずですな。
四 玄 冬
兄は降伏し、捕らえられた。
首相は、失脚した。
軍は、新しい主人を迎えた。
市民は、歓呼で、待望の安寧を祝った。
あなたのおかげで、新しい時代が訪れます。
はやく出せ。やりたいことが山ほどある。
あなたのできるお仕事は、残っているのは、一つだけです。
お前の指図は受けない。
おい、と、格子の中から兄は呼び止めた。
はい、と、妹は振り向いて、唇を結んだ。
待ってるぞ。あっちで。
待っていて。きっとまた一緒に。お兄ちゃん。
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