表紙

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


夏 娘




 夢を見ることは
 誰もが持っている権利でしょう
 およそさえない男でも
 夢の中でなら、
 言えることがあるのです

 あなたは美しいのです
 知らないかもしれませんが。
 うすよごれた中年男の
 心に
 青空のように
 希望と生命力を
 星空のように
 高貴さとすずやかなうるおいを
 ひろげあじわわせてくれる
 そういう美しさが
 あなたです

 かなえられないから夢でしょうが
 かなえてはいけないのも夢でしょう
 社会がどうの
 世間がどうのなど
 結局、このおちこぼれ中年男にとっては
 こわくもなんともありません
 それを万一かなえてしまえば
 あなたはみにくい中年男に
 染まることになる
 それが許せない

 細い小さな声で
 私を呼ぶあなたの
 写真でしか知らなかった
 長い長い手足の
 なんでもないようなしぐさに
 超能力が
 二人の間に息づくよう
 感じてしまえる
 これは
 恋などではありません
 あなた個人への尊敬とも違う。

 太陽の熱光エナーギー
 地球天体の重力エナーギー
 動物、植物の神霊エナーギー
 それが
 あなたに
 はっきりと映って輝いて
 私の背骨のすこし内側のあたりぜんぶを
 照射して焼きつつあって
 ふるえてしまう
 泣けてしまう
 ああ、幸福とは
 快楽とは
 こんなつまらないふうな
 ふれあいに
 そこだけに
 ちらりと
 顔をほころばせるものなのだ
 と。

 おやすみなさい
 素直な
 夏に向かう娘よ
 心やさしい
 少女の後姿よ

 消えてしまえない
 しゅうぢゃくの鬼のように生きる
 中年男は
 手を振るのみ
 またね
 あしたまたね
 と手を降るのみ
 明日も
 あさっても
 その次も
 いつまでも

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

物語 『 夏 娘 』 平成2年8月2日(1990年)
当頁 2016/09/09 (金) 〜