二兎
てつあにいは怖いけど、俺らの面倒をよくみてくれたさ。
一番多いときで十人ぐらいになった。
でも半年しねえでよ、殺られたりはぐれたりばっくれたりで、あにいと俺だけになっちまった。
初めての街について、あにいは新しい武器を買うことにした。
で、惚れ込んだのが「二兎の剣」てえしろもの。
なんのことはねえ、刃に二匹の兎の透かし彫りがあるってえだけなんだが、売り口上がふるっててよ。
でかい望みを二つながらかなえられる縁起物ってえじゃねえか。
怪物どもを倒してやっつけて殺し抜いて、最後にはこの世界の秘密を暴いてよ、ありえねえほどの財宝を手に入れる。
だれもがあこがれるあの伝説の王女を自分の女にしてやる。
てつあにいは、剣にみほれながら、よく語ってたぜ。
その武器屋でよ、しみったれってえわけじゃねえが、俺らの癖だからしょうがねえ、その二兎の剣を買うとき、値切ったとおもいねえ。
店のオヤジはしぶりにしぶり、あにいはねばりにねばって、とうとうオヤジは折れて、でも値は下げなかった。
値を下げる代わりによ、売り物を一つおまけでくれたわけだ。
それが、あっぺ、だった。
魔族のみなしごでよ、最初はあかほっぺだったんだが、呼びづらいからって、あっぺになった。
あっぺはおなごだったが、まだ乳とか平べったくて、魔力も子供だまし。
ぱしりと炊事係ってえところだった。
でもよ、それからしばらくずっと、この三人組で、なんとか生き残ってったんだ。
毎日毎日殺し合いで、殺伐としてたけどよ、それはまあ、シノギだからしょうがねえ。
気がつけば一年ぐらい経ってたしよ。
あっぺがよ、ふつうの人間じゃねえから、成長が早くてよ。
困ったわ、俺。
どうしてそんな肌があらわな戦闘服しかねえんだって、心のなかで文句いってよ。
でもよ・・・
てつあにいとの別れが、意外と早くやってきた。
泣いたわ、俺。
ゴランド海峡を渡るんだってきかねえんだ、あにいが。
向こうの大陸に行かなきゃ、もう上が無えっていって。
でもよ、きいてまわっても、行って帰ってきたものが誰もいねえ。
それじゃわからねえじゃんかよ、伝説とうわさだけじゃよ。
ただ死にに行くだけか。
あにいは信じられたが、俺は疑った。
そもそも海峡はいつも嵐に大波で、漕ぎだした船の二つに一つは、海の藻屑よ。
船賃が信じられねえぐれえ高くてよ、いけるとしても一人分だ。
あっペが、泣き叫んで、てつあにいにむしゃぶりつくんだ。
おなかに赤ちゃんがいるよ。
おねがいだ、もうこわいまねはしねえで。
あたいをすてねえでよう。
ってよ。
でもいっちまった。
あっぺと子どもは俺にまかすって言い残してよ。
二兎の剣が、あにいを連れていっちまったんだな。
あにいがいなくなったら、もう、殺し合いがむなしくなってよ。
俺は、たぶんあっペも、あにいがいたから血の海でも毎日がんばれたんだ。
それなりに楽しかったんだ。
生まれた村に帰った。
あっぺの腹が大きかったから、まあ、村のみんなは俺の子と思ったわ。
俺は武器屋をはじめたよ。
ほかに取り柄もねえしよ。
あっぺがクスリをあつかってよ。
村から外の世界にうって出ようって馬鹿者どものたまり場さ。
八年目ぐらいに、よそもんの男が剣を売りに来た。
一目見て、おもいっきりけなして、買いたたいた。
男に剣の来歴をきいたけど、前の持ち主が海峡の海岸のどこかの街で手に入れたらしい、ってぐらいだ。
夜、あっペにみせた。
涙ながしてた。
俺もさ。
まあ、身を入れてねえから、貧乏だけどよ。
子だくさんで、それなりに楽しい我が家だわ。
てつあにいは、二つながらのなにかを得ようと海を渡った。
俺らはてつあにいを失って、それでも、なにかを得られたって思うよ。
たぶん、いつかはと思ってたけど、見つかっちまった。
倉庫に隠してたんだが、長男のやろうが、うらの森で剣術の稽古さ。
連れていっちまうんだろうな。
でもよ、俺もあっペも、止めねえつもりだ。
きっと、泣くけどよう。
だって、底知れねえ馬鹿でさ、血も涙もなく殺してさ。
歌って飲んで、やりまくってよ。
朝日が昇ったら、さあ、今日もがんばろうって、伸びをしてよ。
それが、俺らだもん・・
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