表紙

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


お嬢さんをください






第一章


 お嬢さんをください。

 職業はなんだ。

 作家です。

 ほう、賞は何を取った。

 これからとる予定です。

 いつ頃になる。

 さあ、十年さきか、二十年さきか・・

 くっていけるのか。

 お父さんも、お歳の割にあまい。
 食っていけるだけ稼げるわけがないでしょう。
 賞を取ろうがとるまいが。

 若いのに、今どき見上げた非常識だ。
 気に入った。娘でもなんでももっていけ。

 ありがとうございます。

 ただし、条件が一つある。

 なんでしょう。

 俺が主催している同人誌に参加しろ。





第二章


 結局、自費出版した本が一冊だけ。
 貧乏教師をして、
 退職後は年金生活で、
 文学に身をささげてきたが、
 俺の人生なんだったんだろうなあ・・ 

 お義父さんは立派でしたよ。
 僕なんか、働いてすらいませんから。

 ああ・・
 お前も不憫な野郎だなあ・・
 何回だっけ、選考に落ちたのは・・

 ええと、忘れました。
 さすがに二桁に乗ると、あとは数なんか問題じゃないですから。
 最近わかったんですよ。
 書く意味が。

 ほう。
 言ってみい。

 作品を書き上げたこと自体が、ご褒美なんです。
 僕たちは愛し合ってる。
 なみだ流れます。
 あとはどうでもいい。
 誰かが読んでくれるとか、褒めてくれるとか、賞をいただけるとか、
 そういうのは全て、
 ほとんどありえない、この世のものではないぐらいの、
 贅沢すぎる夢なんです。
 夢は夢で楽しく夢みればいい。
 僕は僕でしたいことをしていけばいい。
 たくさんのご褒美に包まれて、死んでいけばいい。

 うう・・ 
 こういうときにそういうことを言うか。
 お前は空気が読めない野郎だなあ・・
 いつまでたっても。
 じゃあな。

 お父さん

 お義父さん

 あ、そうそう。
 あの子はどこじゃ。
 一目会って声を聴きたいぞ。

 お父さん

 お義父さん

 あれ、もう逝っちまったか・・ 





第三章


 文字をあやつって作品を創るのは、とっても、古いの。
 いやな臭いがするでしょ。
 億万の作品がもうそうやって産み落とされてるんだから、
 あきあきしてる、作品たちも。
 うめいているわ。
 だからね、
 なぐさめてあげる、
 とむらってあげる意味でも、
 作品を素材にしたメタ構築で遊んでるわけよ、私たちは。

 うんうん。(よくわからないが・・)

 SSBでブラックスター穫るほうが、ずっと大変だしすごいし、
 みんなが尊敬してくれるよ。
 伝統芸能の賞をもらったって、それなに? ってハナで笑われそう。

 うんうん。(それなに、はこっちのセリフだけど・・)

 古いんだから、お父さん。

 うん、古いよ。
 とっても古いよ。
 でも、きいてくれよ。

 お友達との約束があるから、
 手みじかにね。

 お前なあ。
 そういうこととは次元が違うんだよ、これは。
 辞退なんて、とんでもない。
 何度も言うが。
 ・・・・・
 奇跡なんだよ。
 世の中にお前が追いついたのか、お前に世の中が追いついたのか、
 それはわからないけど、どちらにしろ、
 波長が、これ以上ないぐらいぴったり合ったというシルシなんだ、
 賞っていうのは。
 お前は受け入れられた。
 ほとんどの人には許されないことなのに、
 お前は、あの門を開いた。
 滅多にないんだ。

 そうかなあ。

 たのむ。
 お父さんだけじゃない。
 いつもなにも言わないけど、苦労ばかり背負っているお母さんだって、
 喜んでいる。
 仏壇からは、おじいちゃんも、ほら、そういう目で見ている。
 お前がやっと、つかんだんだ。
 夢を・・

 でも。
 うーん。

 たのむ。
 このとおりだ。

 ・・・・・

 ま、いっか。

 おお。

 でも、お父さんに言われたからじゃないよ。
 いまね、
 大好きなおじいちゃんに、呼ばれた。
 きこえた気がしたから。

 ほう。
 なんて言ってた?

 お嬢さん、もらってください。





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

物語 『お嬢さんをください』  初期形:98/05/23 現在形:2013年07月24日
当頁 2016/11/12 (土) 〜