誕生日
身内話を一つ。
小説を書くのが好きということは、うそつきですと公言しているようなものです。
身内というのは、私の姉のことです。
この姉が、四月一日生まれなのです。(そのせいか、とても正直かつ素直ないい女でした。弟が言うのもなんですが)
ああ、これをネタに、何度いじめてしまったことか。
ところで、四月一日が誕生日の人は、早生まれになるというの、ご存じでしたか。
つまり、同学年で一番若い。四月二日の人より、一学年上というわけです。
これが単なるおまけではなく、正しい理屈に基づいているということが、大きくなるまで理解できない弟でした。
※
小学校の一年か二年だった。
数歳年上の姉が大好きだった。
その、姉の誕生日が近づいてきた。春休みだったので、時間はたっぷりあった。
勉強机の上や、部屋の隅で、工作を始めた。
「わかちゃん、何してるの?」
「なんでもない。見るなよ」
姉を邪険にした。が、聡明だったのでなにやら感づいたようで、以後、見て見ぬふりをしていた。
家庭は、かなりさらっとしたもので、誰かの誕生日だからといって、贈り物をするとか、どこかに記念の食事に行くとか、そういうことはそれまでまずなかった。
そういえば誰それの誕生日じゃない?
ああ、そうか、おめでとう。これをあげよう。
と、夕飯の席で、おかずを移してくれるという程度のことしかなかった。
四月一日。
姉の誕生日がやってきた。
弟は、胸に抱えるぐらいの大きな包みを、勉強机の下から引っぱり出した。
ほかの家族は、わかちゃんどうしたの、それ、と初めて見るもののように驚いた。
「お姉ちゃん、プレゼント。僕が作ったんだけど、いいものが入ってるよ」
姉は、準備していたはずなのに、ちょっと言葉がつかえてしまった。
「あ、あり、がと・・・」
「あけてごらんよ」
姉は、新聞紙でぎこちなくくるんであるそれを開けた。何枚もでくるんであった。
するとデパートの鮮やかな包装紙の四角いものがでてきた。
この包装紙のセロテープを剥がして、広げた。
お菓子か何かの金属製の箱がでてきた。
このふたを開けると、手ぬぐいで包まれたものが中にあった。
これを取り出して、また広げて、・・・
・・・そうやって、包みを解いていったのだけれど、まだしばらく本体が現われなかった。
画用紙でできたクレヨン書きの包みの中から、最後にとうとう、キャラメルの箱がでてきた。
姉は、ちょっと歯を見せていた。まっすぐ切りそろえた髪が揺れた。振ると、軽い音がする。
その箱をひらこうとしているときには、弟はこらえきれず、はじけそうだった。
キャラメルの箱の中からは、一枚の牛乳ビンのふたが転げ出た。
弟は、きゃらきゃらと笑って、
「やーい、四月馬鹿。エイプリルフールだもんね」
姉は、とびはね踊っている弟を、見た、と思う。
眉ねをゆがませて、湧き出るもので黒い瞳がふるえていた。
この家庭では、その後も、あまり誕生日というものを祝うことがない。
|