『まめ』の感想
お題
国語辞典を引くと、
「肉刺」
「実(忠実)」
「豆」
この三つが載ってます。
本作は、「実(忠実)」でいったわけですが、「肉刺」や「豆」のほうもなんだか妙なお話が生まれそうです。
「実(忠実)」の「まめ」はどこから来た言葉か、というのも想像を刺激します。
単純に考えると「まじめ」の短縮か、という気はするのですが、では「まじめ」はどこから、と謎は深まります。
昔の人は、「かな」は「仮名」であって非公式のものであり、本当の字は漢字であるという意識があったようです。
そこで、漢字のことを「真名」と言った。「まな」と読み、「真字」とも書く。
「真字」→「まじ」→「まじめ」→「まめ」
という進展がもしかしたら・・
それとも、真実の意味を持つ「ま」に、ものの程度を表わす「め」のついた最初期の言葉だったというほうがありえますか。
起の章
> 手帳にはスケジュールや携帯番号がびっしりと書き込まれている。
いるでしょうね、こういう男。
かくいう私も、昔は、似たようなことを (笑)
・・と言っても、本漁りですけどね。
本棚に本が埋まっていったり、文庫目録で潰していったり、数を求めていた時期があったかと思います。
悪いことではないし、経験を積むということでも実のあることですけれど、いつまでもこれでは、という気もしますよね。
絞り込まれていく、最も合った人(本)が残っていく、というのが自然かな。
というか、残り時間が少なくなっていくのが生き物のさがですから、どこまでも拡大させていくことは不可能です。
「外へ往って、内に還る」でしょうか・・
承、転、結とお話はつながっていきましたが、佐藤のキャラクターは書き手の性向が色濃く反映して、だいぶ様変わりしていったと思います。
読み直すと、NONTAN さんの佐藤が一番リアル。かっこいいです。
承の章
> 「・・・もしもし、祐子?・・・ごめんごめん、寝てた?」
裕子と祐子で名前が違うずら (^^)
最近のHARUさん、誤植が目立つような・・
想像を超えた意味があるのかもしれないけど (笑)
本漁りはいくらしても、出版社や著者が喜ぶだけですが、対象が女性となると細心の注意がいるようです。根深いテーマですな。
ここにずばっと切り込んで、お話の方向を決めてくれました。
偶然が重なりすぎると嘘っぽくはなるのですが、リアルに徹してばかりでも楽しめない。ときには馬鹿話で笑ってみようよ、という感じでしょうか。
のりたくなりますね、確かに。
# 遊び人の性差について #
男の遊び人の場合、女性たちに、私だけが相手と信じさせる。
口八丁手八丁、ですか。ただ、えてして女性同士のネットワークから嘘が破綻したり、というお話が多いような。一ネットワークに一交際相手という配分が無難でしょうね。
普通に生きていると自然に結婚詐欺になってしまうようなレベルになると、周りの誰が見てもだまされていると明白なのに、本人は男の真心を信じている。たとえ男が警察に捕まって別の被害者と裁判沙汰になったとしても、「その人についてはだましていたのでしょうね、でもわたしとだけは真実愛し合っていた」と信じ続ける。片や訴えた女性は裁判によって自分だけに釘付けにしようと屈折してるし、片や刑務所を出たら私のところへ帰ってきてくれる、と待ち続ける。 ・・とかまであるそうで。 ・・ううむ、犯罪、法律どうのよりも深いんでしょうな・・
(夢野久作にこの方面の短編があったと記憶していますが題名を忘れてしまった・・)
女の遊び人の場合、複数交際を隠さない。男たちもそれは百も承知で競い合う。または、競わされる。「さが」というか「ごう」というか、手練手管の妙。
まれに鼻っ柱が折れるのは、女の敵は女というパターンですか。なんでもない小娘にさらわれる、とかね。本命の男にだけは逃げられる、本物の恋だけは実らない、とかもありますか。
私には、こんな感覚がありますね。こういう性差は、今ではあまりないかな・・
・・・・・
いずれにしろ、大人の世界や恵まれた人たちを仰ぎ見るような恋愛悲喜劇であるうちは、純朴に夢みがちに楽しめたんでしょうね。最近では中学生、もしかしたら小学生くらいからずぶずぶと深めに渦に巻き込まれて、そういう「お話」が儚いと分かっているからこそ気軽に消費する、という意味合いに移ってきているのかもしれません。
転の章
さて、どうつなげようかと思いめぐらしているうちに、佐藤をダシにして、真由子一家を書きたくなりました。
転だし、いいのでは? と思いました。
裕子については結に譲ってしまおうと決めました。
つらいのは、長文になってしまうことでした。
佐藤、真由子、父親、母親と四人も登場させることになりますから、普通に書いていたんでは、どうも、長たらしくなりそうで気に入りません。でも、横道にそれる、背景的なもののはずなのですが、これら家族の存在感が欲しくて。
答えは、ご覧のとおり、地の文の削ぎ落としです。
場面の遠近、会話の内外については、「 」付きと無し、一行あけなどでできるだけ簡素にしてみました。
効果ありかな、と感じます。
しかし、TVドラマなどの既視感を利用させてもらったのはいいとして、それ以上に突き抜けてはいない、なぞっているだけというきらいで、意味薄かったかもしれません。
こぎれいにまとめた、というところですか。
書いている私としては、こねまわして手法を楽しんで、快感でしたけど。
> ところで・・・。
> 「菊名」って何処ですか?
> ちょっと地理には疎いので・・・(^^;)
(#424 HARUさん)
菊名については、私も知りません。
想像で書いてみましたが、午前零時過ぎですから、駅から真由子の家までの往復時間と終電の時刻のかねあいなど、嘘もあったかも。
でもまあ、いつの菊名か、どこの菊名か、ということまで本文は詳述していませんし、現実にあまりにとらわれなくても、という気はしました。
それに、
> 「お父さん、いやあ。まだ終電あるよう。せっかくお祝いに来てくれたのに」
というのは、真由子が口からでまかせを言っている、と読みとってもいいわけですし。
> 「そういえばね。でも、ゆっこはふらふらしてるから。 ・・なんだか遊び人に引っかかってるだけみたいよ」
ひらがなで名前を出しました (爆) > HARUさん
このあと、真由子が裕子へ電話、お互いが恋人自慢、という場面まで考えましたが、とても面白そうなんですが、さすがに長すぎて切りました (^^;
結の章
こういうストーリーは、どこまでもつながっていく、いくらでも複雑にからませられるでしょうから、裕子の場を終えた辺りで「明日もがんばろう」で区切ってしまってもいいのでは、と思いました。凝ったオチを付けなくても、と。
でも、花島さんのことですから、どう発展させるのか予想がつかなくて、楽しみに待ってましたよ。
女性陣によるシナリオで舞台は回っていたという(少々無理気味な)種明かしでしたが、途中でドキドキできました (笑)
> いざ、席に着こうとして驚いた。
> 「あ、真由子さん!」
> 「え、佐藤さん?」
> 「あら、あなたたち、知り合い?」
> 3人は大きく目を見開いて、顔を見合わせた。
ここですよね。
正念場、修羅場に突入した緊張感がうれしいです。
不満を言えば、切り抜ける佐藤の口上手、しのぎの技を見てみたかったです。
これが決まれば、よ、千両役者と拍手でしたが (^O^)
(難しいからこそ感嘆できるところですから、並大抵ではないでしょうが)
お金絡みの動機というところが、困ったもんですね、彼女たち。
お金よりも、だますことに意味があるのかもしれません。
現実の、不毛な風景がかいまみえるようで、ただ笑って済ませられないところへ戻っていくようでした。