平成9年11月30日(日)〜


むぐらの宿

.

.

彼は
若いうちから
色好みとうわさされました

.

渡り歩くからというのではなく
そういうことはこの時代
あたりまえなので

.

恋の格調を言うのです
「てぎわ」と言い直してもいいでしょうか

.

.

・

・

新しい都に
家々が建ちならびはじめた頃でした

・

西の京に
一人の女性がおりました
容姿だけではなく 心映えの
すぐれた女性でした

・

そういうひとでしたから
かよってくる男が
ほかにいないというわけではないのでした

・

それでも
彼は訪ねたのです

・

朝の別れをきぬぎぬ(後朝)と申します
きぬぎぬののち
歌を送り交わすのが習わしでした

・

三月の初め
春雨が降っていました

・

起きているでもない
眠っているというのでもない
さきほどまで
そういう一夜を過ごしました
あなたは誰のことを想っていたのです
雨をながめながら
ぼんやりしています

・

・

・

・

・

こういう女性たちとの
みやびな
かけひきに

・

彼はもとより
不自由するような身分でもなければ
臆するような青年でもありませんでした

・

でも
十分に満たされていた
というのでもありません

・

想いを断ち切れない
そういう女性に
ひじき藻という珍品を
贈る機会がありました
歌を添えます

・

わたしをいくらかでも
想ってくださるなら
草のはいまわるほど荒れ果てた小屋で
一緒に寝てはいただけませんか
引いて敷くものには
着物の袖をつかいましょうよ

・

ひじき藻と引敷物をかけた
遊びではありますが
どこか投げやりな雰囲気に
なってしまいました

・

この歌を贈られた女性は
二条の后(きさき)であろうと
後の世の人は言います
彼女がまだみかどに仕える前の
普通の人でいられた頃だと言います

・

・

・


もどる

つぎへ

原歌(別の窓に)

目次へ

扉へ