平成12年2月7日(月)〜

DEAD OR MAIL 2 について


 夢崎景さまのHPで、腰くだけ気味に終わってしまった1000アクセス達成記念リレー小説『DEAD OR MAIL』。
 (詳しくは、
 DEAD OR MAIL について  をご覧ください)
 この第二段として発進した『DEAD OR MAIL 2』だったのですが、なんと、予定回数26回を全うして、完結に至ることができたのです。
 第一段に引き続き、私も参加させていただいたのですが、実に、一年と二ヶ月にわたる長期戦となりました。
 以下に、企画終了後、夢崎さまの掲示板に投稿した私の感想を採録しておきます。

☆ 夢崎景さまのHP「Yumesaki Company」については、
「異世界へ [リンク集]」 をご覧ください。
『DEAD OR MAIL 2』全編は、上記HPの「変な読み物ズ(story.html)」からたどっていただければ、見つかると思います。(平成12年2月7日現在)

※ 下の通り発言に付随するMailとHPのアドレスもそのままをここに転載していますが、JustNetアカウントはH16/03月末には消失します。(H15/05/05 ローカル記載)




DEAD OR MAIL 2 感想 投稿者:和香  投稿日:平成11年10月25日(月)06時07分57秒


☆ みなさん、おつかれさま〜
 しかし、終わりまで四人だけだったとは。
 ううむ。やはり、回数が長すぎるのでは・・ 途中からあとは、もう、
参入するのがつらいかもね。読者・・

☆ おかっぺさん
 誰がみゆきを双子にしたか、それがどうしても知りたくて、この企画
を「消滅」させてはならん、と決めました。(爆)
 冒頭から、ネーミングが独特でしたね。ブルーチーズや女の子がもっ
と伸びるかと思ったのですが、活躍の場(ほれたはれた?)が無かった
かな。
 第四話での、達成君いじめの場、迫真でした。

☆ 夢崎さん
 うにゃあ。マイクロフィルムを出したのは、夢さんでしたか・・
 面白いんだけど、辛かったっすよね (^^)
 大人達に、少年少女が立ち向かうのって、無理があって。
 最初のうちは、ほのぼのした世界が展開するのかと思ってた。それは
それで苦手なんだけど (^^:
 『CAROLの最後』が良かった。スペードのキャラが、終わりに行くほ
ど立ったという感じ。

☆ 卯月みそかさん
 最終話『鳥は舞い降りたか?』、ごくろうさまでした。
 余韻のある情景だなあ。ラスト、ネネがちらっと出てくる所なんか、
特にいいな。
 私の後を受けてくれたことが、五回もあるんだ! 申し訳なかったで
す。面倒なところを後始末してもらったみたいで・・

☆ 和香の所の言訳
 子どもたちだけで対抗は無理とあきらめ、達人を出しました。
 夢さんのオリジナル「達人」が老境になったらくらいの気持ちでした
けどね、だんだん好きなキャラになってしまった。過去とか考えてたら
楽しくて。
 『崇高なる意志』から、大統領やICBMあたり、お話にもっと幅が
欲しい、というつもり。でも、無茶でしたね。・・なんか、この筋を消
そうとして苦労なさってる方もいるみたいとうすうす感じてました(笑)
 自分で書いてて一番気に入ったのは、『血と嗜好』でしょうか。にし
ても達人が活躍しすぎだったかな。それで、最後に子どもたちにも見せ
場をと、『終末からの脱出』のラストで、達成君に、真理を言ってもら
いました。
 みなさん、楽しませていただいて、ありがとうございました。

☆ 時間はかかったし、細かいところでは齟齬もあるようですが、打ち
合わせ無しのリレー小説としては、なかなかの出来映えではないでしょ
うか。長さに比べてキャラが多過ぎのはずなんですけど、それぞれ、こ
れっきりでお別れは淋しいとまで感じます。
 いずれどこかで、パロディでも書いちゃおうか・・ (^^)

http://www2.justnet.ne.jp/~waka/




 そして、・・・・・
 間髪を入れずに夢崎景さまのHPでは、『DEAD OR MAIL 3』が始まっています。しかも、予定回数26回。
 第三段は、ミステリー限定ということもあり難しそうなので、(正直に言うと、また一年か二年付き合い続けるのがあまりに苦難の道に思え ^^;)、今のところ、私は参入を躊躇しているところです。
 平成12年2月7日現在、『DEAD OR MAIL 3』は、第4話まで進んでいますが・・・・・



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夏文庫 扉



【参考までに】

 『DEAD OR MAIL 2』全編については、冒頭で紹介しました夢崎さまのHPでお楽しみください。
 以下では、私の投稿回(=全26回のうち8回)のみ、採録しておきます。メール投函時そのままです。改行様式などが、本掲載の形と多少違っているかもしれません。





第2話...ルビコン川

「ふるえるなよ、ユニ(短縮形)」
 越後屋が言った。
「作戦はちゃんとあるんだ。・・・レジの女は近所の高校生で、きのうからの新人さ。ばりばりに緊張してるから、へでもないんだけど、念には念を入れる。これはスパイの心得その一だ」
 越後屋はみんなをまわりに集めた。
「まず、たっちゃん(達成短縮形)、君がおとりになる」
 達成君は越後屋よりからだが大きいぐらいなんだけど、ぼんやりして表情がのどかだった。
「いいか、そこら辺にあるものをいくつかカゴに入れる。それをレジに持っていく。ただし、品物のうち一つでいいから、バーコードを剥がしておくんだ。レジの女は、金額が分からないので、必ずここら辺まで出てきて調べようとする。その間、レジはカラだ」
 ブルーチーズが尊敬のまなざしで越後屋を見た。そばかすが可愛い。
「ただし、もっとあぶない敵がいる。監視カメラだ」
 達成君は分かっているのだろうか。カゴだけ手に持って、口をすぼめている。
「レジがカラになった瞬間、たっちゃんがレジにぼんやりいる。隣にブッチー(ブルーチーズ短縮形)、その隣にミユキ(自分の妹なのでそのまま)、と並んでこっちを向いて立つんだ。そして、ユニ、お前が二人のお尻の陰にしゃがんでるんだ。ブッチーがお尻で合図。ユニは手首だけ伸ばして、ガムをゲット。犯人の顔は監視カメラに写らない。・・・どうだ、完璧だ」
 僕は、ふるえが止まった。越後屋について行くぞ。

 そして、さあ、決行という段になって、越後屋が手を振って、みんなをまた集めた。
「いけない。吊し上げられて女にビンタされてるユニが見えた。鼻血ぼたぼただ。作戦は完璧だけど、動きがスパイじゃない。おまえ(ブッチー)まで青ざめてるもんな。・・・よし、公園で予行練習だ。しごくぞ」
 越後屋の号令で、全員、店を飛び出した。

 息切らして公園に着いて、越後屋は人数を確かめた。
 ブルーチーズが悲鳴を上げた。
「あんた、それなによー」
 達成君が、カゴを持っていた。
 中には、お菓子や缶詰やゴジラがたくさん入っていた。



メール投函  1998年 8月 18日  20時 26分




第5話 .....誠の拳

 そのとき、灰色の風が舞った。
 黒服は突然のことに驚きながらも、応戦体勢をとろうとした。
 一瞬で、ガムが吹き飛び、銃が遠くに落ちる。
 左の眼球に、一閃。うあああ・・・ しかし、寸止め。
 直後、タマキンに直撃。ひえええ・・・ しかし、寸止め。
 とどめに心臓へ正拳。うぐっ・・・ これも、寸止め。
 黒服が一動作をする間に、これだった。
 (なぜ打ち込まない! そうか、トラップ・・)
 総毛立つほどの凶声、烈火の回し蹴りが右方向から!!!
 ・・・
 そして、これも寸止め。

「ああ、お、おじいちゃあん」
 黒服は、凍りついた獣の表情のまま崩れ落ちていった。
「達成。見たか。これが、秘拳その一、『真風腰斬波』だぞ」
 風は、鎮まった。
 男は、尻を高く突きだして突っ伏し、痙攣しながら、地べたで呻いていた。
「若造。武道とは、全体で成り立つ。無目的に身体を鍛え、力のみで目先のことに対処しているうちは、赤子なのだ。お前の筋骨は一方向からの攻撃にばかり気を取られ、逆撃の心構えが追いつかなかった。とっさに応じようとしても、かくの如しよ」
 ううう、いてえ、いてえよ・・・
「今、背骨の軟骨部分(椎間板)が、はみ出しておる(ヘルニア)状態じゃ。背骨の中にある神経を圧迫し、ぐじぐじにねじ曲げ、たいへんに痛い。たぶん」
「近づくなあああ」
 声は野太いのだが、その姿はあまりにみじめだった。
「よし、達成、仕返しじゃ、こいつの腰を攻めろ」
「えいっ」

 ぎゃがわうううおおおげえええ〜〜〜〜〜〜

「痛そうだよ、おじいちゃん」
「次は、足げじゃ」
「むんむん」

 でれれええごがあああああ〜〜〜〜〜

「よしよし。身体を鍛えに鍛えてある奴ほど、いったんなるとしんどいのよ。孫をいじめおって。覚えたか」

「なになに、ねえ」
 わらわらと越後屋たちが集まってきた。
 町内は、庭。道路や路地しか探し回れない黒服たちを巻くことなど、超法規の缶けりで遊ぶ彼らには造作もないことだった。
「僕もやっていい、たっちゃんのおじいちゃん」
「よし、やれ」
「あたしもー」
 
 ・・・男は、涙にゆれる視界に、とりまく鬼たちの笑顔を見た・・・

 どすっ ばきゃ ごんごん

 ・・・(おかあさん、おかあさん、ぼく、ものすごくつらいよう)・・・

「あー、おしっこ漏らしてる」
「くせえぞ。うんちだ」
「泡吹いてるね」
「・・・うむ。子供は素直で元気。なによりじゃ」

 おじいちゃんは、達人(たつひと)といい、達成君の名付け親なのだった。



メール投函  1998年 9月 13日  21時 19分




第7話 ... 崇高なる意思

「なにい、ガキが四五人とジジイが一人だと! いったい何をやってる、役立たずどもめ」
 ・・・・・
「人質を取った? それであれが入手できるなら何でもしろ。誘拐なんて手ぬるいんじゃないのか。何人殺してもいいんだ」
 ・・・・・
「俺が許す。殺せ、殺せっ」

 受話器を叩き付けた。
 受け渡しに、失敗した、無能な奴らが。
 深奥部をハッキングされた。丸二十四時間、誰も気付かなかった。
 昨日、犯人から取り引きしたいという連絡が入った。犯人がどういう情報を手にしたのか、その見本を見せるというのだ。
 見本であれ、本体であれ、一切が漏れてはならない。あれだけは、絶対に。

 国家とは、最大多数の国民の幸福のためにある。少数の犠牲は、やむをえない。いや、むしろ、必要なのだ。悪い芽は摘んでいく。それが親心ではないのか。
 犯人の脅し文句にあったが、「国家的機密」が聞いてあきれる。あれは「地球規模」のものだ。いざとなれば、葉巻遣いの大統領に頼んで、ICBMをぶち込んでもらおう。都市の一つや二つで済めば、万々歳だ。
 何より、「あの方」にこんな失態が知れたら、私が・・・



メール投函  1998年 10月 12日  3時 47分




第11話...銀の翼

 ブルーチーズのお母さんがやっている喫茶店に、一人また一人と集まった。
「あなたは、みっちゃんじゃないよね」
「ミユキです。一緒に逃げてたんだけど、はぐれちゃって」
 ユニセフは、勇気をしぼって、告白した。
「ごめん、ブッチー。はっきりしなかったから、待ってたんだけど、越後屋がこう言ってた」
 ブルーチーズの妹のみゆきは、誘拐されたのかもしれない。でも、こちらにこのマイクロフィルムがあるうちは、どうにかなるって、越後屋は言うんだ。・・・そう、説明した。
 カララン・・
 達成君が入ってきた。汗と涙でずいぶん汚れていた。
「お水ちょうだい、お水・・」
「ねっ、おじいちゃんはどうしたの」
「・・ごくごく・・ えっとね、五人ぐらいぼこぼこにしてたけど、弱すぎてつまんないって言ってた」
「だから、今はどこにいるのよ。正面から戦えるのは、今はおじいちゃんしかいないのよ」
「・・うんとね、途中で、越後屋と会ったんだ。そしたら、二人で何か話してて、走ってっちゃった」

 ブルーチーズのお母さんは、カウンターの中で洗い物をしていた。またいつものスパイ会議ね、と頭を突き合わせている子供たちのことは気にもとめなかった。
 その「会議」では、ようやく結論がでるところだった。
 司令塔と戦闘員がいない。今ここを制圧されたらひとたまりもない。あいつらは拳銃なんだ、もう、お巡りさんに知らせて助けてもらうしかない。
 カララン・・
 いっせいに入り口を見た。
 女の人が一人、入ってきた。
「ああ、コンビニの姉ちゃん!」
「こんなところにいたのね。何よ、怖がらなくてもいいのよ」
「ごめんなさい。今はそれどころじゃないんだ、それに、これからどうせ交番に行くんだから」
 ユニセフがそう言うと、彼女は溜息をついて、椅子を一つ引っぱってきた。
「あんたたち。それどころじゃないのは、どっちかしらね。警察なんか行ってみなさい、みんなまとめて消されちゃうわよ」
 皆は、声が出なかった。この人は何を知ってるというのだろう。
「お巡りさんは、いつも助けてくれるんだよ」
「後でゆっくり説明してあげるから、今は、私の言うことを聞きなさい。これから支部に案内してあげる。それ、マイクロフィルムね。・・・もう、無かったことにはできないのよ」
 ユニセフは尋ねた。
「支部って、何? どうなってるの」
「私たちの組織よ。『銀の翼』。難しく言えば、情報公開を推進するための市民団体。今はもう、過激派ってことにされてるだろうけど・・」



メール投函  1998年 11月 9日  23時 50分




第15話...大義

 コンテナの外壁が拳で叩かれた。
 鳥肌が立ったが、それは取り決め通りの軍艦マーチだった。
 なにやら重そうな麻袋を床においた。
「達人じっちゃん。来てくれたんだね・・」
「少年、おしっこでもちびってたか。がはは」
 懐中電灯を灯すと、麻袋の中から、酒瓶を取り出す。
「じっちゃん、今はそれどころじゃあ・・」
「あせるな、少年。時には待つことも大事だ。こんな宵の口に攻め入る夜襲はないのだ」
 達人は日の丸入りの鉢巻きを取り出すと、一本を越後屋に渡した。
「今夜、我々は死ぬ。飲め。別れの杯だ」
「やっぱり・・死ぬの・・」
「怖れるな。大義の許に死ぬのだ。犬死にではない」
「『たいぎ』って?」
「ふうむ。そうか、今どきの子どもには意味が分からんよのう。よしよし。昔話をしてやる。前の戦争で、わしがルーズベルトを暗殺したときのことだった・・・・・・・・」

 ・・・・・・・・
 数時間後、越後屋は深い眠りに落ちていた。
 懐中電灯をあてると、女の子かと思うほどきれいな寝顔だった。
「秘拳睡眠誘導波じゃ。ぐははは。君にはこの国の未来のことを頼もう。達成と仲良くしてくれよ・・」
 麻袋を提げて、コンテナの扉を開けた。
 しけってなけりゃいいがな。旧軍の火薬が。・・まずは表門で派手に花火、その隙に裏手から侵入としようか。あいつら甘っちょろいからこの程度の陽動作戦で初発を入れてみるか。
 うおお、胸おどる。この高ぶりは何十年ぶりだ。
 少年よ、・・・物事はうまくいくとは限らんのだ。
 暗殺したというのは、嘘だよ。惜しかったがな。
 我が、風船部隊は、最年少の兵隊の初歩的な過ちによって、つまり、わしがいけないのだが、不時着した。ロッキー山系、死の彷徨。・・・上官殿も、先輩たちも、後事をわしに託して、息絶えていった。
 麓までおりることができたのは、わしだけであった。ワシントンは遠かった・・
 どうして、途中で、アメリカ娘の尻など追いかけてしまったのか・・
 悔やまれてならん。
 罪滅ぼしをさせてもらおう。待っていて下されよ、皆の衆・・



メール投函  1999年 1月 25日  9時 43分




第18話...血と嗜好


 カマーは、ペロペロ飴を舐めていた。
 黒服たちは、すでにいない。新手が接近しているという情報が入って、外の警護にかり出されたのだ。
 ドアが開いて、ふらっとスペードが入ってきた。
 うっすら笑うその顔面には血痕が着いていた。
「あら、もうお料理はすんだの?」
「ジジイだからな、もう一つだったが、ま、たっぷりといたぶらせてもらったさ」
 スペードは、ナイフを机に突き立てた。赤黒く染まっていた。
 それから、二人の子供をじっと見つめはじめた。
「だめよ、この子たちは」
「お許しは出てるんだろ。イキのいいのをこう、サクッとやりてえんだ」
「ちょっと、もうこうして縛り上げてるんだし、取引に使うんだしさ。いいかげんにしなさいな」
 ペロペロ飴を口にくわえたまま、カマーは立ち上がって、二人に微笑んだ。ちょっと可愛らしく思えてきている。
 みゆきはふるえながら、越後屋にからだを寄せた。鼻をすすって泣いている。
 越後屋は唇を結んでいた。突き立てられた無惨なナイフに釘付けにされていた。

 ペロペロ飴が床に落ちた。
 カマーは、目を見開いたまま、膝を折り、前のめりに倒れた。
 その後ろで、砕けた酒瓶の首を持っているスペードが息を弾ませていた。
 机のナイフを抜く。二人に近づく。





 縄を断ち切って、越後屋とみゆきを自由にすると、
「さあ、あとは脱出だ」
 と、その殺人鬼は言うのだ。
 ドアの陰から、達人がにやつきながら見ていた。
「おじいちゃんっ」
 そう叫んだのは、その殺人鬼スペードだった。
 達人はスペードを抱擁して、背中をたたいた。
「よくやった。これでおまえも改心できたな」
「うん。もうこりごりだよ。マミーのパパと殺し合うなんて、地獄に堕ちていたんだ。これからは、なんでもする。おじいちゃんの大義のためにね」
 みゆきはよろめいていたので、達人がおぶった。
 スペードが先導して、通路を行く。

 越後屋がささやいた。
 ・・ねえ、ほんとに、アメリカのほうで生まれた孫なの、あのお兄さん?
 ・・どうだかな。秘拳『まぶたの祖父』じゃ。精神は弱々しいものよ。ぐはは。



メール投函  1999年 4月 21日  2時 16分




第22話...七の月


 合衆国、ホワイトハウス二階の、専用個室(つまり化粧室だが)。
 ここで、ある決定がなされた。
 日本の同志からの報告を受けると、「彼」はため息をついて、二つの「義務」を果たした。

 本当の歴史・・
 神の話・・
 いや、深く考えるのはよそう。
 予言はすべて実現してきた。

《七人の戦士が、地上を再興する》

 この箴言を信じるのみ。
 読み解けばつまり、選ばれた、七つの国の七つの首脳が、灰となった世界を立て直す・・
 ならば、これしきのことで。
 手始めにすぎない、全人類の一万分の一程度の犠牲なのだから、気に病むことはないのだ。
 予言、つまり、約束された未来の姿は、選ばれなかった者たちが目にしてはいけないのだし。
 ・・・・・
 すでにサイロは地鳴りをたてて開きつつあるだろう。
 まず砂埃が舞い、いきりたった熱風が立ちのぼり、ついに神の石弓が、おごそかに大地から放たれて行くのだ。
 わが国の責任を回避するのは、責任ある立場に選ばれた者の職務であるから、地球を反対側から回っていく。よって、大陸側からあの列島国の、報告にあった海沿いの都市に、突き刺さるであろう。
 ・・・・・
 おお、神よ。
 偉大なる意志よ。

 ・・ああ、忘れるところだった。
 日本人にもまだ、サムライスピリッツを持つヤツがいる。
 借りは返しておこう。
 あのタツ小父さんに、一言知らせておかなければな・・
 まさかちょうどあの都市にいるとは思えないが、どうせこれからあの国は天地がひっくり返る騒ぎだろうし。
 フロリダあたりに別荘でも用意してあげようか・・





 この忙しい最中に、軍艦マーチが鳴った。
 達人の携帯の着メロであった。



メール投函  1999年 7月 15日  15時 49分




第25話...終末からの脱出

 ロシアンシップ。
 『銀の翼』は世界中にネットワークを持つ。
 三井は、険しい表情でかつてなかったほど声をあらげていた。
「どうなんだ、消えたのかまだ飛んでるのか、『迷い鳥』は!」
 五人のオペレーターたちはモニターに釘付けで必死にキーを打ち、あるいは数値を確かめていた。
「『迷い鳥』は飛んでいます。至近で爆発した迎撃ミサイルで損傷は受けましたが、しぶとく生きている。・・ああ」
「どうなるのだ」
「地球を二周目に入っています」
 青ざめた一人がヘッドホンを外して叫ぶ、
「盗聴しました。自爆装置は効かないと叫んでいる、USAの奴ら。畜生、無責任な」
「ならば、このままロシアンルーレットってことなのか」
 三井は低い天井を仰いで、ゆがんだ笑顔でうめいた。
「いや、確証はありませんが、たぶん・・」
「たぶんなんだ、早く言え、早くっ」
「GPS(全地球測位システム)を聴く耳が生きているなら『迷い鳥』は、一周してから当初の目的地に落ちる。これが可能性が一番大きいでしょう」
「最初の軌道計算から言っても、落ちるのは・・」
「確かか」
 決断まで要した時間は一分間。
 三井は、総員待避、支部を放棄する、と緊急指令を発した。
 船を出航させている暇はない。地上を行くしかない。できるだけ早く、一メートルでも遠くへ逃れる、この滅び去る都市から。
 それしかないのだ。



 バンの中で、ブルーチーズが受信マイクを握って応答した。
 落ちる、落ちる、とばかり騒いで、『銀の翼』の人の言うことはよく飲み込めなかった。それに、車の外では、凄絶な戦闘の真っ最中だったのだ。
「いやあ、やめてえ・・」
 ブルーチーズは顔を覆い、マイクを落とした。
 けだものたちが猛り吠える。死の光芒が灰色の壁や濃紺の空をいろどる。
 達人が、全身に銃弾を浴びて体液をシャワーのように吹き出しながら、ノアたちに突っ込んでいく。
 若い男が、達人をかばうようにして敵との間に割って入り、二三人を射殺していた。
 ネネは、荷台から出してバンの屋根に上り、自動小銃を斉射しはじめた。
 地獄の世界が、そこに繰り広げられている。
 越後屋やユニセフまで、拳銃を構えて、そして、撃ち放っている。
 ミユキとみゆきはやっと再会できたのだけど、後ろの席で抱き合って泣いている。



 いつのまにか、朝日が、水平線を染めつつあった。
 みなは、必死になって、横たわる達人を止血していた。
 辺りには、もう敵はいない。しかばね以外は・・
 達成は、祖父のそばに近づいて、報告した。
「じいちゃん。落ちるって。アイシービーエムってのが、落ちるんだって、もうすぐ」
「・・ここにか」
「うん。『銀の翼』の人たちはみんな逃げていっちゃったと思う」
「・・ふう。そうか。たぶん、間違いないだろう」
 あいつはそれを知らせたかったのか。世の中は終わってしまうのか。はは・・
 バンで仲間たちと通信を交わしていたネネと越後屋が、戻ってきた。
「逃げるんだ。時間がないかもしれないけど」
「一般の人たちは、まだ寝静まってるから、道路はすいています。全速力で行きます」
「わしは置いていけ」
「そういうわけにはいかないよ、グランパ・・」

 ブルーチーズが叫ぶ。
「たっちゃん、なにしてるの、あとはあんただけよう」
「早く乗れ、達っ」
 達成は、港の姿に一つ一つ息吹を与えていく陽射しを浴びていたけれど、振り返った。
 海の鳥が、なにごともないように舞っている。
 泣いていた。
「お父さんは? お母さんは? 街の人たちは?
 どうして、みんなに知らせてあげないの。僕たちだけが生き残ればいいの」



メール投函  1999年 9月 20日  6時 11分




掲載日(主催夢崎さま発表の通り)

 98/08/19 第2話『ルビコン川』 和香
 98/09/15 第5話『誠の拳』 和香
 98/10/12 第7話『崇高なる意志』 和香
 98/11/10 第11話『銀の翼』 和香
 99/01/25 第15話『大義』 和香
 99/04/21 第18話『血と嗜好』 和香
 99/07/17 第22話『七の月』 和香
 99/09/20 第25話『終末からの脱出』 和香






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